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金融大学金融大学講座 > 外国為替入門講座
    
  
外国為替入門講座
第10回 為替相場の決定理論
講師:有馬秀次

1.為替相場決定理論

外国為替相場は、自国通貨と外国通貨の交換比率です。為替レートは、外貨を買う人と売る人がどれだけいるかという為替の需給により決まります。

≪フローアプローチとストックアプローチ≫

為替相場決定理論には様々な学説がありますが、為替需給のどこに注目するかにより、フローアプローチとストックアプローチの2つの体系に分けられます。
※フローとは「流れ」のことです。ある一定期間に動いたお金のことで、所得や給料のことを意味します。ストックとは「存在量」のことです。ある時点の資産残高のことを意味します。

◆フローアプローチ

フローアプローチは、一定期間の取引高から需給を捉える方法です。一定期間に生じた対外取引の受取りと支払いの金額から、為替レートを導き出します。

フローアプローチによる理論は、固定相場制の為替市場を背景に唱えられた理論に多く、一般に古典派理論と呼んでいます。
※固定相場制とは、決済に利用される為替レートが一定相場に決められている取引制度のことです。

◆ストックアプローチ

ストックアプローチは、一時点の資産残高から需給を捉える方法です。投資資産に占める外貨資産の保有額の比率から、為替レートが決まると考える理論です。

ストックアプローチによる理論は、1970年代以降の変動相場制の為替市場を背景に唱えられた理論で、近代派理論と呼んでいます。近代派理論が古典派理論より優れた理論というわけではありません。古典派理論の方が実際の為替レートの動きをうまく説明できる場面も数多くあるからです。

2.古典派理論

古典派理論は、1970年代以前に唱えられた理論です。固定相場制の市場が背景にあったことが特徴です。そのため、古典派理論は、為替需給を一定期間の取引量から捉えようとするフローアプローチが理論の中心になっています。

古典派理論を代表する学説として、国際収支説、購買力平価説、為替心理説があげられます。

古典派理論…フローアプローチが理論の中心

国際収支説
(国際貸借説)

為替の需給は、国際貸借の状況により決まると考える理論

購買力平価説

外国為替レートは、自国通貨と外国通貨の購買力の比率
よって決定されるという理論

為替心理説

為替相場は、思惑、信頼感、人気、登記、予測などといった
心理的要素
によって変動すると考える理論

≪国際収支説(国際貸借説)≫

為替の需給は国際貸借の状況により決まってくると考える理論を、国際収支説とか国際貸借説と呼びます。英国の銀行家で政治家でもあったG・J・ゴッシェン(1831−1907)が、1861年に唱えた理論です。これは、国際貸借の状況を一定期間の経常収支から捉えようと考えたものです。

例えば、経常収支の黒字は、為替レートを円高・ドル安に動かします。経常収支が黒字になると、日本が受取る外貨を円に換える動きが起こり、外貨を売って円が買われるからです。逆に、経常収支の赤字は、為替レートを円安・ドル高に動かします。経常収支が赤字になると、外国に外貨を支払う必要が生じるため、円を売って外貨を買う動きが起こるからです。

国際収支説の問題点は、国際収支から為替の需給関係の実態を把握できない点です。為替の決済を遅らせたり早めたりするリーズ・アンド・ラッグズの動きを、経常収支は捉えていません。また、国際収支のデータ収集方法は、各国の統計データに誤差があり、信頼できないという弱点があります。

国際収支説は、19世紀後半から第1次世界大戦に至る金本位制時代に支持された理論です。当時の国際収支は、大半が経常収支であったため、経常収支で為替の需給関係を把握できたのです。ところが、1980年代以降から、国際収支の中で資本収支の占める割合が大きくなり、経常収支のみでは国際間のお金の動きを見るのはむずかしくなってきました。そのため、経常収支と、1年以上の資本(資金)の動きを見る長期資本収支をくわえた基礎的収支の動向を見るようにしています。

国際収支説は、短期的な為替レートの動きを説明する場合に適しているようです。

◆参考

(1)

国際収支とは、ある一定期間に生じた国際間の経済取引の明細と帳尻(ちょうじり)を記録したものです。国際収支は、「経常収支」(けいじょうしゅうし)と、借款(しゃっかん)や対外投資などの動きを示す「資本収支」からなります。経常収支は、物の売買の帳尻を示す貿易収支、サービスの売買の帳尻を示す貿易外収支、贈与等の移転収支を合わせたものです。

(2)

国際貸借は、一時点の対外投資と、投資や借入金の残高の状態を意味します。しかし、国際貸借説でいう国際貸借は、一定期間のお金の動きである経常収支を指すものです。

≪購買力平価説≫

外国為替レートは、自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるという理論を、購買力平価説と呼んでいます。スウェーデンの経済学者、G・カッセル(1866−1945)が1921年に唱えた説です。

物やサービスの価格は、通貨の購買力を表しています。財やサービスの取引を自由に行える市場では、同じ商品の価格は1つに決まります。これを一物一価の法則といいます。取引が自由に行えて価格の情報が十分に与えられるのであれば、海外でも同じ商品の価格は同じ価格で取引されるはずです。

もし、米国の物価が日本より安ければ、米国の製品を買う人が増えるはずです。円を売ってドルを買う人(円安ドル高)が増えるため、米ドルは上昇します。逆に、日本の物価が米国より安ければ、日本の製品を買う人が増えるはずです。米ドルを売って円を買う人(円高ドル安)が増えるため、米ドルは下落します。
日本で1個100円のハンバーガーが米国で1ドルであったとすれば、為替レートは、1ドル=100円で釣り合うと考えられます。これを
絶対的購買力平価説といいます。

しかし、ある一時点の通貨の絶対的な価値(購買力)を把握するのはむずかしい問題です。そこで、2国間の物価の相対的な動きに着目することにしました。2国間の物価のどちらがより大きく変動したかを見ることにしたのです。
2国間の物価指数上昇率の差を
インフレ格差といいますが、2国間のインフレ格差から為替レートを決める方法を相対的購買力平価説といいます。

ある国の物価が上昇すると、その国の通貨価値は下がります。これを2国間で見ると、インフレ格差分だけ相手国の通貨価値が下がると考えられます。
現在の為替レートが1ドル=120円として、日本の物価指数が5%、米国の物価指数が10%上がるとすると、相対的に見て、5%だけ米国の物価が上がったことになります。その結果、ドルの通貨価値は、円に対して5%だけ下がると考えられます。つまり、為替レートは、1ドル=114円に下落して均衡するというわけです。

新為替レート−旧為替レート×

自国インフレ率

相手国インフレ率
新為替レート =120× 105%

110%
=114

購買力平価説は、長期的な為替レートの動きを説明するのに適しています。

≪為替心理説≫

為替相場は、思惑、信頼感、人気、登記、予測などといった心理的要素によって変動すると考える理論です。フランスの経済学者のA・アフタリオン(1874−1956)が1927年に唱えた説です。政治情勢、軍事情勢などのニュースが流れると相場が大きく変動する現象を説明する理論です。

3.近代派理論

為替相場制度は、1973年に変動相場制へ移行しました。これに呼応して主要諸国は、資本(資金)の国際間の移動を自由化させる措置を取ったため、お金が投機目的で世界を飛び回るようになりました。
近代派理論は、こうした投機目的で動き回るお金が増えたことに着眼して導き出された理論で、ストックアプロ−チを中心に展開されています。

ストックアプローチは、マネタリーアプローチとアセットアプローチに分けられますが、アセットアプローチが理論の中心です。

≪アセットアプローチ≫

アセットアプローチは、ある一時点の金融資産(アセット)の保有高に注目して、為替の需給関係を見ようとする理論です。金融資産の組合せのことをポートフォリオと呼ぶところからポートフォリオ・アプローチとも呼んでいます。

為替レートは、投資家による国際間での資産選択を通して決定される資産価格の一種で、異なる通貨建ての資産の期待収益が等しくなるように決定されると考える理論です。

期待収益率というのは、収益の実現がはっきりしない場合に予想される、平均的な収益率のことをいいます。簡単にいえば、将来の予想平均収益率のことです。

投資家は、将来に予想される利回りのほかに、キャピタルゲインやキャピタルロスというリスクを考慮して、国内外の資産にどれだけ投資するかを決めていきます。このポートフォリオに組み込まれる外貨建て金融資産と邦貨建て金融資産の保有比率によって、為替レートが決定されると考える理論です。

◆例

日本国債と米国国債の2つの金融資産から、どちらか1つを選択する場合を考えてみましょう。日本国債の最終利回りを5%、米国国債の最終利回りを7%、と仮定します。

日本国債の期待収益率は最終利回りと一致しますが、米国国債の期待収益率は最終利回りと一致しません。為替損益が発生するからです。この為替損益は、プラスであったりマイナスであったりしますが、これらを平均して予想した為替レートを期待為替レート変化率と呼ぶことにします。

米国国債の期待収益率は、米国国債の最終利回りに期待為替レート変化率を加減したものとなります。

ドル金融資産期待収益率=米国国債最終利回り±期待為替レート変化率

このドル金融資産期待収益率が円金融資産の期待収益率よりも高い場合、ドル金融資産に投資することになります。円を売ってドルを購入する動きが起こり、為替レートは、ドル高円安に推移します。

この動きは、円金融資産の期待収益率とドル金融資産の期待収益率が等しくなったところで止まります。期待為替レート変化率が、2%(7%−5%=2%)になると、ドルと円の期待収益率が等しくなります。したがって、為替レートは、現在レートより2%ドル高になったところで均衡することになります。

          

米国国債最終利回り=ドル金融資産期待収益率+期待為替レート変化率

ドル金融資産期待収益率=米国国債最終利回り−期待為替レート変化率

円金融資産期待収益率=日本国債最終利回り

ところで、期待為替レート変化率は、日米間の金利差に相当しています。

米国国債最終利回りをドル金利、日本国債最終利回りを円金利に置き換えると

ドル金融資産期待収益率=ドル金利−期待為替レート変化率

円金融資産期待収益率=円金利

という式が得られます。ドル金融資産と円金融資産の期待収益率は等しいところで均衡するとすると

円金利=ドル金利−期待為替レート変化率

とおけます。そこでこの式を変形すると

期待為替レート変化率=ドル金利−円金利

となり、期待為替レート変化率は、日米金利差に相当することがわかります。

アセットアプローチ(ポートフォリオ・アプローチ)は、投資資産のポートフォリオ選択理論を、為替レートの決定に応用したものです。

◆参考

ポートフォリオ選択理論は、金融資産に投資する際の期待収益率とリスクを勘案して分散投資させると、単独の資産に投資する場合よりリスクを低減させた投資ができることを示す理論です。

理     論

着 目 点

理論の適合性

主要な需給要因

国際収支説
提唱者:ゴッシェン

為替手形の需給

短期的に適合

貿易(固定相場制)

購買力平価説
提唱者:カッセル

物価

長期的に適合

貿易(固定相場制)

為替心理説
提唱者:アフタリオン

信頼感、思惑

短期的に適合

 貿易(固定相場制)

アセットアプローチ
提唱者:マーコビッツ

期待収益率、金利

短期的に適合

投機(変動相場制)

◆参考

国際貸借説(Theory of International Indebtedness)
G・J・ゴッシェン(George Joachim Goschen)1831−1907…英国の銀行家で政治家
外国為替理論(The Theory of Foreign Exchanges)を1861年に発表

購買力平価説(Purchasing-Power-Parity Theory)
G・カッセル(Gustav Cassel)1866−1945…スウェーデンの経済学者
外国為替の購買力平価説(purchasing power parity theory of exchange rates) を1921年に発表

為替心理説(Psychological Theory of Exchange)
A・アフタリオン(Albert Aftalion)1874−1956…フランスの経済学者
貨幣、物価、為替論(Monnaie, Prix et Change)を1927年に発表

≪まとめ≫

為替相場決定理論

フローアプローチ(古典派理論)…一定期間の取引高から需給を捉える方法

ストックアプローチ(近代派理論)…一時点の資産残高から需給を捉える方法

古典派理論

国際収支説、購買力平価説、為替心理説

固定相場制の為替市場を背景に、1970年代以前に唱えられた理論

近代派理論

マネタリーアプローチ、アセットアプローチ

変動相場制の為替市場を背景に、1970年代以降に唱えられた理論

≪問題≫

為替相場決定理論は、古典派理論と呼ばれる●●●アプローチと、近代派理論と呼ばれる●●●●アプローチの2つの体系に分けられます。

古典派理論は、●●相場制の為替市場を背景に、1970年代以前に唱えられた理論です。●●●アプローチを中心に、国際収支説、購買力平価説、為替心理説などの学説があります。

近代派理論は、●●相場制の為替市場を背景に、1970年代以降に唱えられた理論です。●●●●アプローチが中心で、マネタリーアプローチとアセットアプローチに分けられます。

国際収支説(国際●●説)は、1894年にG・J・ゴッシェンが唱えた理論で、国際貸借の状況を一定期間の経常収支から捉えようと考えたものです。●●的な為替レートの動きを説明する場合に適しています。

●●力平価説は、1921年にG・カッセルが唱えた理論で、外国為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されると考えたものです。●●的な為替レートの動きを説明するのに適しています。

ある一時点の通貨の絶対的な価値を把握して為替レートを決める方法を、●●的購買力平価説といいます。一方、2国間の物価の相対的な動きに着目して2国間のインフレ格差から為替レートを決める方法を、●●的購買力平価説といいます。

為替●●説は、1927年にA・アフタリオンが唱えた理論で、為替相場は心理的要素によって変動すると考えたものです。●●的な為替レートの動きを説明する場合に適しています。

アセットアプローチは、マーコビッツが唱えたポートフォリオ選択論を為替レートの決定に応用したもので、●●●フォリオ・アプローチともいいます。●●的な為替レートの動きを説明する場合に適しています。

●●レートは、投資家による国際間での資産選択を通して決定される資産価格の一種で、異なる通貨建ての資産の期待●●が等しくなるように決定されると考える理論です。

10

米国国債の●●収益率は、為替損益が発生するため最終利回りと一致しません。期待収益率とは、収益の実現がはっきりしない場合の●●的な予想収益率のことです。 

≪解答≫

フロー、ストック

絶対、相対

固定、フロー

心理、短期

変動、ストック

ポート、短期

貸借、短期

為替、収益

購買、長期

10

期待、平均

      
    
  
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