金融大学(金融大学講座)

特別講座 経済学の定義

1.生活水準の向上とは?

 

経済学の研究テーマは、「生活水準の向上」です。

 

生活とは、ヒトが衣食住に必要なモノを消費することによって、生命維持を行う活動のことです。消費に必要なおカネは、働いて得ます。すなわち、生活とは、仕事(労働)をしておカネを稼ぎ、モノを購入する行動(活動)のことです。生活を支えるしくみのことを「経済」と呼びます。

 

経済学では、「人々がより良い生活を送るには、どうしたらよいのか?」を考えます。
より良い生活(生活水準の向上)とは、モノの量を増やして、人々の物欲をより満足させることです。

 

 

 

2.経済成長とは?

 

消費者の需要(ヒトがモノを欲しがること)が増えてくると、生産者の供給(モノを作って売ること)活動が活発になり、一国全体のモノの生産量が増えます。生産物がすべて売り切れるのであれば、一国の総取引額(売買代金)も増えます。一国の総取引額(国内総生産)が増えると、国民一人一人の所得が増えて、個人の暮らし向きもよくなります。これを「経済成長」と呼びます。

 

経済成長(総生産量の増大)は、長期の視点で捉えたマクロ経済学の定義です。
「モノの価値」の視点から生活向上を考えると、経済学は「経済成長」の研究と定義されます。

 

 

 

3.最適とは?

 

モノを生産するには、元となる資源が必要です。しかし、資源は無限にあるわけではなく、限りがあります。
この限りある資源の中で、最大の生産量を実現し、なおかつ、平等に分配することが求められます。このような状態を「最適」といいます。

 

最適の実現」は、短期の視点で捉えた経済学の定義です。
「最適」は、資源配分問題(限りある資源の中で、できるだけ多くのモノを生産し、社会の成員に公平に分配するという課題)に応える定義です。

 

「最適」とは、均衡や完全雇用状態のことを指します。
均衡とは、ヒトの行動(予算内で上手な買物をすること)から生まれる効用(満足度)が最大になっている状態です。一方、完全雇用とは、労働供給(労働人口)の最大値のことです。

 

経済学の定義

 

 

 

4.最適=均衡

 

均衡」は、短期の視点で捉えたミクロ経済学の定義です。

 

人々は、限りある資源の中で、効用(満足度)を最大化しようとして、「労働力」を売り、「財・サービス」を購入(商品の組み合わせを選択)します。これを消費者の最適化行動といいます。

 

ミクロ経済学では、「最適化行動の結果、価格メカニズムが働けば、市場経済は均衡する」という学説を研究しています。

 

つまり、「ヒトの行動」の視点から生活向上を考えると、経済学とは、「均衡」の研究と定義されます。

 

 

 

5.最適=完全雇用状態

 

完全雇用とは、働きたい人が全員働ける状態(失業者がいない)のことです。このとき、労働市場は最適な状態にあります。
完全雇用」の実現は、短期の視点で捉えたマクロ経済学の定義です。

 

すなわち、ケインズによるマクロ経済学(ケインズ経済学)の定義は、短期の視点で捉えた「完全雇用の実現」です。
ただし、現在のマクロ経済学の定義は、長期の視点で捉えた「経済成長」です。

 

ミクロ経済学では、ヒトの行動(予算内で上手な買物をすること)がもたらす効用価値(満足感)の大きさを基準にして「均衡」を最適と捉えましたが、ケインズ経済学では、モノの価値を基準にして、「完全雇用」を最適と捉えました。

 

完全雇用量の労働力を使って生産した最終生産物の総取引額のことを「完全雇用GDP」といいます。マクロ経済学の「完全雇用GDP」は、ミクロ経済学の「均衡」に匹敵する最適の概念です。

 

ケインズは、「価格メカニズムがうまく働かない場合に、総生産物の取引額は、過少雇用GDPとなり、失業が発生する」という学説を発表しています。

 

ところで、時間の経過に伴い、技術革新、新商品開発、人口増加など、資源を増加させる環境が整うと、モノの生産量は、限界なく増やすことが可能になります。
つまり、長期の視点で捉えたマクロ経済学は、「完全雇用」を実現した上で、更なる「経済成長」を遂げることと定義されます。

 

経済学の定義

 

 

 

6.最適にするには?

 

では、「経済成長」や「均衡」を実現させるには、どうしたらいいのでしょうか?
経済学では、次のようなことを考えます。

 

・機械を使って、生産効率を上げる(生産量を増やす) - ー - 技術革新
・作業を分担して、生産効率を上げる(生産量を増やす) - ー - 分業
・市場のルールを整える(生産物の交換を促進する) - ー - 取引促進のための規制

 

 

 

経済学定義

 

著名な経済学者の経済学定義をご紹介します。
    
①マーシャルの物質主義的定義

 

アルフレッド・マーシャル( 1842 - 1924)、イギリスの経済学者。
下記の定義は、著者『経済学原理』1890 の冒頭からの引用です。

 

「政治経済学または経済学は、日常生活の実務(取引)における人間の研究である。
それは個人的ならびに社会的な行為のうち,福祉の物質的要件の獲得とその使用にきわめて密接に関連している部分を取り扱うものである。
それゆえ、経済学は一面においては富の研究であると同時に、他面においては人間研究により重要な側面を持っている。」 (第1巻,2頁)
(Materialist definition)
Alfred Marshall、( 1842 - 1924), British economist
Book"Principles of Economics"(1890)
"Political Economy or Economics is a study of mankind in the ordinary business of life; it examines that part of individual and social action which is most closely connected with the attainment and with the use of the material requisites of wellbeing.
Thus it is on the one side a study of wealth; and on the other, and more important side, a part of the study of man.("Principles of Economics"ch1)

 

②ロビンズの希少性定義

 

ライオネル・チャールズ・ロビンズ(1898 - 1984)、イギリスの経済学者。
下記の定義は、著作『経済学の本質と意義』(1932年)からの引用です。

 

「経済学は,様々な用途に使える希少性のある資源と目的との間の関係としての人間行動を研究する科学である。」(P15もしくは P16))
Scarcity definition)
Lionel Charles Robbins (1898 - 1984), British economist
Book "An Essay on the Nature and Significance of Economic Science" (1932)
"Economics is the science which studies human behaviour as a relationship between given ends and scarce means which have alternative uses."
(Ch I P15 or P16)

 

 

 

参考

 

参考までに、一般の辞書による「経済」と「経済学」の説明を載せておきます。

 

◆ Goo辞書『デジタル大辞泉』小学館
 (https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%B5%8C%E6%B8%88/#jn-66327)

【 経済 】
1 ㋐人間の生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動。また、それらを通じて形成される社会関係。
  ㋑金銭のやりくり。「わが家の―は火の車だ」
  ㋒費用や手間のかからないこと。倹約。「弁当を持っていくほうが―だ」
2 《「経国済民」「経世済民」の略》国を治め民を救済すること。政治。

 

【 経済学 】
社会科学の一分野で、経済現象を研究する学問。理論経済学・経済史学・経済政策などの部門がある。

 

 

スポンサーリンク

 

 

まとめ
  1. 経済学の研究テーマは、「生活向上」です。
  2. 生活とは、仕事(労働)をしておカネを稼ぎ、モノを購入する活動(行動)のことです。
  3. 経済とは、「物欲を満たすために、ヒトがモノをおカネで手に入れる活動」のことです。
  4. 生活向上とは、モノの量を増やして生活の満足度を高めることです。
  5. 人々の活動が活発になり、一国全体のモノの生産量が増えていくことを「経済成長」といいます。
  6. 経済成長とは、国民一人一人の所得が増えて暮らし向きがよくなることです。
  7. 経済成長は、長期の視点で捉えたマクロ経済学の定義です。
  8. 「モノの価値」の視点から生活向上を考えると、経済学とは「経済成長」の研究と定義されます。
  9. 資源配分問題とは、限りある資源の中で、モノをできるだけ多く生産して、社会の成員に公平に分配する課題のことです。
  10. 最適とは、限りある資源の中で、最大の生産量を実現していて、なおかつ、平等に分配されている状態のことです。
  11. 最適とは、均衡や完全雇用状態のことを指します。
  12. 均衡は、短期の視点で捉えたミクロ経済学の定義です。
  13. 消費者の最適化行動とは、限りある資源の中で、効用(満足度)を最大化しようと、「労働力」を売り、「財・サービス」の購入の組み合わせを選択することです。
  14. ミクロ経済学には、「最適化行動の結果、価格メカニズムが働けば、市場経済は均衡する」という学説があります。
  15. 「ヒトの行動」の視点から生活向上を考えると、経済学とは、「均衡」の研究と定義されます。

 

 

問題と解答
  1. 経済学とは、「(①生活、②体重)水準を向上させるにはどうすればよいか」を考える学問です。
  2. (答え)①生活

  3. (①商売、②生活)とは、仕事(労働)をしておカネを稼ぎ、モノを購入する行動のことです。
  4. (答え)②生活

  5. (①経済、②好況)とは、「物欲を満たすために、ヒトがモノをおカネで手に入れる活動」のことです。
  6. (答え)①経済

  7. 生活向上とは、モノの量を増やして生活の(①苦労、②満足度)を高めることです。
  8. (答え)②満足度

  9. 人々の活動が活発になり、一国全体のモノの生産量が増えていくことを(①経済成長 ②経済減速)といいます。
  10. (答え)①経済成長

  11. 経済成長とは、国民一人一人の所得が(①増えて、②減って)暮らし向きがよくなることです。
  12. (答え)①増えて

  13. 経済成長は、(①ミクロ経済学、②マクロ経済学)の定義です。
  14. (答え)②マクロ経済学

  15. 「モノの価値」の視点から経済学とは(①均衡、②経済成長)の研究と定義されます。
  16. (答え)②経済成長

  17. 資源配分問題とは、限りある資源の中で、モノをできるだけ多く(①生産、②消費)して、社会の成員に公平に分配するという課題のことです。
  18. (答え)①生産

  19. 最適とは、限りある(①資源、②土地)の中で、最大の生産量を実現していて、なおかつ、平等に分配されている状態のことです。
  20. (答え)①資源

  21. 最適とは、(①均衡、②失業)や完全雇用状態のことを指します。
  22. (答え)①均衡

  23. 「均衡」は、(①ミクロ経済学、②マクロ経済学)の定義です。
  24. (答え)①ミクロ経済学

  25. 消費者の最適化行動とは、限りある資源の中で、効用(満足度)を最大化しようと、「労働力」を売り、「財・サービス」の購入の組み合わせを(①償却、②選択)することです。
  26. (答え)②選択

  27. ミクロ経済学には、「最適化行動の結果、価格メカニズムが働けば、(①市場経済、②計画経済)は均衡する」という学説があります。
  28. (答え)①市場経済

  29. 「ヒトの行動」の視点から生活向上を考えると、経済学とは、(①経済成長、②均衡)の研究と定義されます。
  30. (答え)②均衡

金融大学TOP > 金融大学講座 > 特別講座 経済学の定義

トップへ戻る