金融大学(金融大学講座)

特別講座 日本版401K-確定拠出年金

 

 

1.確定拠出年金とは何か

 

確定拠出年金とは、拠出額(掛け金)の運用結果によって、将来受け取る年金額が変わるという新しい年金制度です。アメリカの401Kプランという企業年金(内国歳入法401条K項)を参考にしてつくられたため、日本版401Kとも呼ばれています。

 

今までの企業年金(厚生年金基金や適格退職年金など)は、将来受け取る年金額が約束されている確定給付型の年金です。
確定拠出年金(日本版401K)は、従来のものとは異なり、加入者が自己責任で運用指図を行う年金です。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

確定拠出年金(日本版401K)は、毎月積み立てる拠出額(掛け金)を決めておき、加入者本人が運用方法を選び、指図を行います。将来受け取る年金額は、拠出額と運用収益により違いが生じます。運用が成功すれば、将来多額の年金を受け取ることができますが、失敗すれば、損失をだしてしまいます。運用は、すべて自己責任で行います。

 

確定拠出年金の積立残高は、個人別に管理されます。これを、個人別管理資産といいます。従業員が転職する場合には、個人別管理資産を、非課税で転職先の年金プランにそのまま移管することができます。これを、ポータビリティーといいます。

 

確定拠出年金には、企業型と個人型の2つのタイプがあります。いずれも60歳未満の人が対象となります。企業型と個人型の両方に、同時に加入することはできません。

 

企業型年金は、企業が拠出金(掛け金)を支払います。厚生年金を適用している企業が導入することができます。

 

個人型年金は、個人が拠出金(掛け金)を支払います。自営業者や、企業年金(厚生年金基金、適格年金、企業型の確定拠出年金)を導入しない企業の従業員が加入できます。公務員と専業主婦は加入できません。また、国民年金保険料を滞納している場合は、加入できません。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

確定拠出年金の導入により、今まで投資に関心のなかった人たちが、年金以外の余剰資金についても株式などで運用すると予測され、株式市場が活発化するものと期待されています。

 

 

 

2.企業型年金

 

企業型年金は、企業が拠出金(掛け金)を支払います。従業員が拠出金を支払うことはできません。また、限度額を超えて拠出することはできません。拠出限度額は、企業がすでに企業年金(厚生年金基金、適格退職年金)を適応しているかどうかで違います。企業年金がある場合は年間
21万6000円、企業年金がない場合は年間43万2000円となります。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

企業型年金を導入できるのは、厚生年金を適用している企業です。導入するかどうかは、労使(労働者と使用者)が話し合って決めます。企業の一存で決めることはできません。

 

導入には、企業型年金の規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。規約では、運営管理機関、資産管理機関、加入資格、拠出額の算定方法、運用方法の提示や支給方法、3年未満に加入資格を失った場合の、返還資産額(企業に返還する資産額)の算定方法などを決めます。

 

企業型年金は、企業が拠出金を支払い、従業員の個人別管理資産に積み立てられます。勤続3年以上になると拠出金の受給権は、全額、従業員のものとなります。しかし、勤続3年未満の場合は、規約に定めた算定方法により、従業員の個人別管理資産から企業に返還されることになります。

 

企業型年金に加入できるのは、60歳未満の従業員です。企業型年金の加入者が60歳になり加入資格を失った場合、または障害給付金を受け取る場合は、加入者ではなくなり、 企業型年金運用指図者となります。運用指図者は、個人別管理資産の運用指図を行いますが、加入者ではないので、企業からの拠出はありません。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

確定拠出年金は、税制面で優遇されています。企業の拠出金は、損金に算入することができます。運用のときには、年金資金に特別法人税が課税されることになりますが、2002年度まで凍結されています。また、給付のときには、年金で受け取る場合には公的年金等控除が適用され、一時金で受け取る場合には退職所得課税が適用されます。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

これまでの確定給付型の企業年金は、株価低迷や金利低下などから、予定利率で運用できず、不足額は企業が負担しなければなりませんでした。しかし、確定拠出年金は、従業員が自己責任をもって運用する年金なので、企業のリスクがなくなります。

 

そのかわりに、企業は、従業員が正しい知識をもって運用を行えるように、従業員に対して投資教育(資産運用の基礎知識の説明、資料の提供など)を行う義務を負うことになります。

 

 

 

3.個人型年金

 

個人型年金は、個人が拠出金(掛け金)を支払います。企業が上乗せ拠出をすることはできません。また、限度額を超えて拠出することはできません。

 

個人型年金は、自営業者や、企業年金(厚生年金基金、適格年金、企業型の確定拠出年金)を導入しない企業の従業員が加入できます。いずれも60歳未満の人が対象となります。公務員と専業主婦は加入できません。また、国民年金保険料を滞納している場合は、加入できません。国民年金保険料を納付した月だけ、拠出することができます。

 

企業年金がない企業の従業員の拠出限度額は、年間18万円です。自営業者の拠出限度額は、年間81万6000円です。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

企業型年金と個人型年金に同時に加入することはできませんが、国民年金基金と個人型年金に同時に加入することは可能です。ただし、国民年金基金と個人型年金の合計拠出額は、拠出限度額を超えることはできません。加入者は、拠出限度額を超えない範囲で、拠出金を決めます。

 

個人型年金の運営管理業務は、運営管理機関に委託しますが、資産管理機関が行う拠出額の管理業務は、国民年金基金連合会が行います。

 

国民年金基金連合会は、個人型年金の規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。規約では、運営管理機関、加入者の拠出額、運用方法の提示や支給方法などを決めます。また、少なくとも5年ごとに規約内容の再検討を行います。

 

加入の申し込み先は国民年金基金連合会となりますが、手続きは運営管理機関(銀行、郵便局、証券会社などの金融機関)で行います。加入者は、運営管理機関を指定したり、変更したりすることができます。

 

個人別管理資産のある加入者が資格を失ったとき、または国民年金基金連合会へ申し出たとき、個人型年金運用指図者となることができます。運用指図者は、個人別管理資産の運用指図を行いますが、加入者ではないので、拠出はしません。国民年金基金連合会への申し出により、個人型年金加入者になることもできます。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

国民年金基金連合会は、加入者に対して、投資教育(資産運用の基礎知識の説明、資料の提供など)を行うよう、努めなければいけません。

 

加入者の拠出金は、非課税となり所得控除されます。また、給付時にも税制上の優遇措置があります。税金の面では、個人で資産を積み立てて運用するより、得となります。ただし、60歳にならないと、給付は受けられません。

 

 

 

4.運用

 

確定拠出年金は、加入者本人が運用方法を選び、指図を行います。将来受け取る年金額は、拠出額と運用収益により違いが生じます。運用が成功すれば、将来多額の年金を受け取ることができますが、失敗すれば、損失をだしてしまいます。運用は、すべて自己責任において行わなければなりません。

 

運用対象商品は、運営管理機関によって提示されます。運営管理機関は、企業(企業型の場合)や国民年金基金連合会(個人型の場合)の委託を受けて、運営管理業務を行います。企業は、運営管理機関に委託せず、自ら運営管理業務を行うこともできます。

 

運用対象商品は、預貯金、株式、公社債、投資信託、保険商品などです。運用を行う加入者の保護が図られていなければいけません。

 

運営管理機関は、少なくとも3つ以上の金融商品(そのうち1つは元本確保商品)を加入者に提示します。また、3ヶ月に1回は、運用の指図(預け替え)の機会を加入者に提供し、少なくとも年1回は、個人別管理資産額を加入者に通知します。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

加入者は、提示された中から運用商品を選びます。商品は、1つでも、2つ以上でも構いません。選んだ商品に、それぞれの運用額を決めます。

 

企業や国民年金基金連合会は、加入者が正しい知識をもって運用を行えるように、加入者に対して投資教育(資産運用の基礎知識の説明、資料の提供など)を行う必要があります。

 

 

 

5.運営管理機関と資産管理機関

 

運営管理機関(銀行、証券会社など)は、企業(企業型の場合)や国民年金基金連合会(個人型の場合)の委託を受けて、運営管理業務を行います。
国民年金基金連合会は、運営管理機関に運営管理業務を委託しなければなりませんが、企業は、運営管理機関に委託せず、自ら運営管理業務を行うこともできます。

 

運営管理機関は、記録関連業務と運用関連業務を行います。
記録関連業務では、業務に関する書類を管理し、加入者が求めた場合には閲覧させたり、加入者が受給する場合の、受給資格の確認を行います。少なくとも年1回は、個人別管理資産額を加入者に通知します。
運用関連業務では、加入者に運用対象商品を提示し、3ヶ月に1回は、運用の指図(預け替え)の機会を加入者に提供します。提示した商品の情報(利益や損失の可能性、実績利回りなど)の提供を行います。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

拠出された積立金については、企業型の場合は、資産管理機関(信託会社、保険会社、農業協同組合連合会)が管理します。一方、個人型の場合は、国民年金基金連合会が管理します。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

確定拠出年金の運営・管理を、運営管理機関と資産管理機関に完全に分割して行うことによって、加入者の個人別管理資産の安全が図られるようになっています。

 

 

 

6.移管

 

確定拠出年金の積立残高は、個人別に管理されます。これを、個人別管理資産といいます。個人別管理資産の管理は、資産管理機関(企業型年金の場合)と、国民年金基金連合会(個人型年金の場合)が行います。

 

従業員が転職する場合には、個人別管理資産を、非課税で転職先の年金プランにそのまま移管することができます。これを、ポータビリティーといいます。

 

勤続3年以上の場合と、障害給付金を受け取る場合には、全額を移管することができます。勤続3年未満の場合は、各企業ごとに定めた企業型年金の規約により、返還資産額(企業に返還する資産額)を算定します。

 

企業型年金は、企業が拠出金を支払い、従業員の個人別管理資産に積み立てられます。勤続3年以上になると拠出金の受給権は、全額、従業員のものとなります。しかし、勤続3年未満の場合は、規約に定めた算定方法により、従業員の個人別管理資産から企業に返還されることになります。

 

転職先が確定拠出年金を導入していない場合には、個人型の国民年金基金連合会に移管されます。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

 

 

7.給付

 

給付には、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金の3種類があります。いずれの場合も、個人別管理資産がなくなり次第、給付は終了となります。受給方法には、毎月に分けて受け取る「年金」と、一括で受け取る「一時金」があります。受給資格のチェックは、運営管理機関が行います。

 

老齢給付金は、年金で受け取る給付金です。拠出期間が10年を超える場合には、60歳から受給資格が生じます。拠出期間が10年を超えない場合でも、遅くとも65歳から受給可能となります。ただし、70歳までに受給を開始する必要があります。受給者が死亡した場合や、障害給付金を受給する人は、老齢給付金は受け取れません。企業型年金規約で一時金の給付を定めている場合には、一時金として受け取ることも可能です。

 

障害給付金は、年金で受け取る給付金です。60歳に達していなくても、受け取ることができます。受給者が死亡した場合には、受け取れません。企業型年金規約で一時金の給付を定めている場合には、一時金として受け取ることも可能です。

 

死亡一時金は、一時金で受け取る給付金です。加入者が死亡した場合に、遺族に支給されます。加入者は、受給権のある親族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)のなかから、受取人を指定しておくこともできます。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

 

 

8.401Kプラン

 

401Kプランは、米国の確定拠出型の企業年金制度です。内国歳入法401条K項の規定から、401Kプランと呼ばれています。内国歳入法401条K項は、従業員の拠出金(掛け金)を所得控除の対象とする税制上の優遇措置を定めたもので、1978年に導入されました。

 

401Kプランは確定拠出型であるため、拠出金の運用結果によって、将来受け取る給付額に違いが生じます。金融商品や運用方法を選ぶのは、従業員が自己責任において行わなければなりません。401Kプランに加入するかどうかも、従業員が決めます。

 

拠出金は、従業員の給与から天引きされて、個人勘定に積み立てられます。企業は、この従業員の拠出に、一定割合で上乗せして拠出することができます。これをマッチング拠出と呼んでいます。日本の確定拠出年金には、マッチング拠出はありません。

 

401Kプランには、税制上の優遇措置があります。従業員の拠出金は所得から控除され、運用時の課税とともに、将来給付を受けるときまで繰り延べされます。企業の拠出金は、損金として計上することができます。

 

積み立てた拠出金を引き出すことができるのは、従業員が退職した場合、死亡した場合、高度障害となった場合、59歳6ヶ月に達した場合、経済的危機に陥った場合です。それ以外の理由で引き出す場合には、ペナルティが課せられ、税制上の優遇措置もなくなります。

 

従業員が転職する場合には、積み立てた拠出金を、転職先の401Kプランに非課税で移管することができます。これをポータビリティーといいます。転職先に401Kプランが導入されていない場合には、IRA(個人退職用積立勘定)に移管することができます。

 

401Kプランの導入により、企業は、運用利回りが予定利率を下回った場合の積立不足額を負担する必要がなくなります。大企業では、401Kプランと確定給付型年金を導入し、従業員が選択するという方法を採っているところが多いようです。一方、中小企業やベンチャー企業などでは、401Kプランだけを導入しているところが多いようです。

 

日本版401K-確定拠出年金

 

≪参考≫

 

IRAは個人年金です。1974年の導入時には加入対象者に制限がありましたが、1981年に制度が改定され、誰でも加入できるようになりました。

 

IRAには、所得控除のあるIRA、所得控除のないIRA(一定所得以上の場合)、資産移管用のIRAなど、いろいろなタイプがあります。

 

加入者が金融商品や運用方法を選び、自己責任で運用を行うこと、税制上の優遇措置があることなどは、401Kプランと同じです。

 

401Kプランに加入している従業員は、退職した場合や401Kプランを導入していない企業に転職した場合に、積み立てた拠出金をIRAに移管することができます。IRAに移管すると、課税の繰り延べ措置は継続されます。

 

 

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まとめ

確定拠出年金
  拠出金の運用結果によって、年金額が変わるという年金制度
  個人別管理資産(拠出金の積立残高)は、転職時に移管できる…ポータビリティー
  企業型年金…企業が拠出金を支払い、従業員が自己責任で運用を行う
  個人型年金…個人が拠出金を支払い、自己責任で運用を行う
  加入者が、自己責任で運用指図を行う
  給付の種類…老齢給付金、障害給付金、死亡一時金
運営管理機関と資産管理機関
  運営管理機関…運用対象商品の提示、受給資格の確認など
  資産管理機関…拠出された積立金の管理
401Kプラン
  米国の確定拠出型の企業年金制度
  マッチング拠出…従業員の拠出に、企業が上乗せ拠出できる
  ポータビリティー…転職先の401K、もしくはIRAに移管できる

 

 

問題と解答
  1. 日本版401Kは、毎月積み立てる●●額を決めておき、加入者本人が運用方法を選び、指図を行います。運用は、すべて自己●●で行います。
  2. (答え)拠出、責任

  3. 企業型年金は、●●が拠出金を支払います。●●年金を適用している企業が導入できます。企業の拠出金は損金に算入することができるなど、税制面で優遇されています。
  4. (答え)企業、厚生

  5. 個人型年金は、●●が拠出金を支払います。自営業者や、企業年金を導入しない企業の従業員が加入できます。個人の拠出金は●●控除されるなど、税制面で優遇されています。
  6. (答え)個人、所得

  7. 運営管理機関は、預貯金、株式、公社債、投資信託、保険商品などの金融商品のうち、少なくとも●つ以上(そのうち1つは●●確保商品)を加入者に提示します。
  8. (答え)3、元本

  9. ●●管理機関(銀行、証券会社など)は、企業や国民年金基金連合会の委託を受けて、運営管理業務を行います。運営管理業務には、●●関連業務と運用関連業務があります。
  10. (答え)運営、記録

  11. ●●管理機関(信託会社、保険会社など)は、企業の委託を受けて、個人別管理資産の管理を行います。個人型の場合は、●●年金基金連合会が行います。
  12. (答え)資産、国民

  13. 従業員が転職する場合、個人別●●資産を、非課税で転職先の年金プラン(または個人型の国民年金基金連合会)に移管することができます。これを、●●●ビリティーといいます。
  14. (答え)管理、ポータ

  15. 給付には、●●給付金、障害給付金、死亡一時金の3種類があります。●●管理機関が受給資格のチェックを行い、年金(毎月に分割)か、一時金(一括)で受け取ります。
  16. (答え)老齢、運営

  17. 401Kプランは、米国の確定●●型の企業年金制度です。拠出金は、従業員が支払います。企業は、従業員の拠出に上乗せして拠出することができます。これを●●●ング拠出と呼んでいます。
  18. (答え)拠出、マッチ

  19. IRAは個人年金です。所得控除のあるIRA、所得控除のないIRA、資産移管用のIRAなど、いろいろなタイプがあります。401Kプランの積立金は、従業員の転職・退職時に●●Aに移管することができます。課税の繰り延べ措置は継続されます。
  20. (答え)IR

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