|
1.2項モデル(バイノミナルモデル)の意味と計算
≪2項モデルとは何か≫
2項モデル(バイノミナルモデル)は、ツリー(樹形)型の価格変動モデルを利用してオプション価格(プレミアム)を計算する近似計算法です。発案者3人の名前から呼び名がついたCRRモデル(コックス・ロス・ルービンシュタイン)も、2項モデルとして広く知られています。
2項モデルは、原資産価格やオプション価格の変動パターンを樹形に当てはめてみることでオプション価格を見つけだそうとするモデルです。オプション価格は原資産価格の動きに付随しているので、将来の原資産価格がわかれば、そこから逆算して現在のオプション価格が求められるというものです。
◆B&Sモデルとの違い
2項モデルでは、B&Sモデルのような高度な数学的テクニックを使わずに計算が行えます。計算に時間がかかるのが難点ですが、B&Sモデルと違ってアメリカンタイプやエキゾチック(非定型オプション)のプレミアム計算ができる点が長所で、オプション評価法の定番になっています。
|
モデル |
計算できるオプションのタイプ |
計算速度 |
|
B&Sモデル |
ヨーロピアンタイプ |
非常に短い |
|
2項モデル |
ヨーロピアンタイプ、アメリカンタイプ、エキゾチック |
時間がかかる |
2項モデルの計算には、汎用ブラックショールズ式と同様に、行使価格、期間、原資産価格、原資産利回り、短期金利(安全利子率)、ボラティリティ(予想変動率)の6つの情報が必要です。
◆ツリー(樹形)型とは
ツリー(樹形)型とは、木が枝分かれしていく様子をいいます。2項樹形は、2つに枝分かれを繰り返していくもので、枝分かれしたもの同士が再結合するという構造の樹形です。ちょうど、ひし形の格子を連ねた形をしているので、これを格子モデルとして説明していきます。
2項モデルでは、原資産価格が格子上を上昇するのか下降するのか、という単純な動きを繰り返すと仮定することによって、原資産価格の変動が説明できると考えています。
|
|
|
原資産価格 |
/ \ |
上昇 |
繰り返す→将来の価格形成 |
|
下降 |
|
≪ノード(結節点)≫
2項モデルで原資産価格が枝分かれしていく経路が再結合する節点のことをノード(結節点)といいます。ノード(結節点)は、価格が上がるか下がるかの分岐点を示します。
|
3つのノードが形成する三角形を格子の最小単位として1格子と呼ぶことにします。
また、1格子を期間の最小単位として1期間と呼ぶことにします。
隣り合う格子は、互いにノードを共有しています。 | |
|
1格子 |
|
ノード |
|
/ |
| |
| |
↓ |
|
/ |
\ |
| ノード |
|
| ノード |
/ |
\ |
|
/ |
| |
| ノード |
|
\ |
|
/ |
\ |
| |
| ノード |
| |
|
\ |
|
/ |
| |
ノード |
| |
|
|
|
\ |
|
|
|
例えば、現在の原資産価格が100円である場合、1期間後に101円に上昇するか、99円に下降するかのどちらか1つの動きをするとします。 |
|
|
|
1期間後に101円に上昇すると、2期目はさらに上昇して102円になるか、下降して100円になるかです。
1期間後に99円に下降すると、2期目は上昇して100円になるか、さらに下降して98円になるかです。
1期目で上昇して2期目で下降した場合と、1期目で下降して2期目で上昇した場合の原資産価格は、共に100円となります。 |
|
| 現在 |
1期 |
2期 |
|
| |
|
|
102
100
98 |
| |
|
/ |
| 100 |
/ |
\ |
| \ |
/ |
| |
|
\ |
| |
|
|
|
|
|
格子を3期間に拡張すると、3期間後には、4通りの原資産価格が予想されます。
1期目は、ノード100円から101円に上がるか99円に下がるか、という2通りの経路しかありません。格子数は1つです。
2期目は、ノード101円から102円に上がるか100円に下がるかという経路と、ノード99円から100円に上がるか98円に下がるかという経路に広がります。格子数は2つになります。 ノード101円から下降した場合と、ノード99円から上昇した場合は共に同じノード100円に到達します。
3期目には、3つの格子ができることになります。
このように、n期間後にはn個の格子ができることがわかります。 3期間の全体の格子数は、6個(1+2+3=6)になります。 n期間の全体の格子数は、n(n+1)/2
個と計算されます。 |
| |
3期間 |
|
| |
1 期 目 |
2 期 目 |
3 期 目 |
|
| |
|
|
|
103 |
| |
|
|
/ |
| |
|
/ |
\ |
101 |
|
100 |
/ |
\ |
/ |
| \ |
/ |
\ |
99 |
| |
|
\ |
/ |
| |
|
|
\ |
97 |
| |
|
|
| |
|
n期間後の格子数は
n個 ノード数は n+1 |
| 全体の格子数
: n(n+1)÷2 |
|
|
◆オプション価値とオプション価格 オプション価格とは、市場でオプション価値に付けられる値段のことです。したがって、オプション計算モデル(BSモデル、2項モデル)で計算しているオプション価値というのは理論価格のことを意味します。
2.2項モデルの計算
2項モデルは、(1)原資産価格を予測する、(2)予測された将来のオプション価格から、現在のオプション価格を逆算する、という計算を行うために格子パターンを利用しています。
|
(1)原資産価格の予測
現在の原資産価格から将来の原資産価格を予測します。
|
例えば、現在の原資産価格が100円であるとして、1期間後に10%上昇するか下降するかの仮定をすると、1期間後の原資産価格は、 110円(100×1.1=110)か、91円(100÷1.1=90.9)と予測されます。 上昇率(Up)をU=1.1、下降率(down)をd=1÷U=0.91 とすると、 100×U または 100×d で、一期先の原資産価格の計算が行えます。
|
|
CRRモデルでは、U=e σ√t 、d=e
-σ√t と設定して計算します。
※実際の計算では、1期間の上昇または下降はごく微小な数値ですが、ここでは計算をわかりやすくするために、10%という大きな数値で説明しています。 |
|
(2)オプション価値の計算
◆現在のオプション価値の計算
将来の原資産価格が予想されると、現在のオプション価値が計算できます。
例えば、行使価格100円のコールオプションの場合、オプション価値は、 原資産価格が110円に上昇した場合のオプション価格(Cu)は、10円(110−100=10) 原資産価格が91円に下降した場合のオプション価格(Cd)は、0円(オプション放棄) と計算されます。
|
計算の方向 |
| |
← |
10 |
Cu=uS−K =110−100=10 オプション行使 |
|
? |
/ |
|
\ |
0 |
Cd=dS−K =91−100
=−9 オプション放棄 |
| |
|
C=コールオプション価格、S=原資産価格、K=行使価格 ※uは上昇(up)、dは下降(down)を意味しています。 |
|
◆1期前のオプション価値の計算(後戻し計算)
|
|
2項モデルのオプション計算式を使うと、1期間後の2つのオプション価格を使って、1期前のオプション価格を計算することができます。 |
|
|
例えば、Cu=10、Cd=0 P=0.6 R=1 であった場合、次のように計算されます。
| C |
= |
1
R |
〔PCu+(1−P)Cd〕 |
| |
= |
1
1 |
〔0.6×10+(1−0.6)×0〕 |
| |
= |
6 |
C=コールオプション価格、R=現在価値を計算する割引率、P=確率
|
|
P=(R−d)/(u−d) |
|
ただし、 |
u=e
σ√t/n |
d=1/u |
R=e r
・t/n |
e=ネピアの数(すう)、σ=予想変動率、r=短期金利、t
=オプション行使期間、n=分割数 |
≪2項モデルのオプション計算式≫
1格子期間の原資産の動きと安全資産の動きを無裁定価格評価理論を使って組み合わせると、オプションのキャッシュフローが模倣できます。 2項モデルのオプション計算式は、この関係を連立方程式にして解いて求めたものです。 ここでいう原資産とは、オプション取引の対象商品で、株式オプションであれば株式のことを、ドル/円の通貨オプションであればドルのことを意味します。 安全資産というのは、デフォルトリスク(債務不履行)のない資産のことで、国債のような商品を意味します。利率が確定している大手銀行の定期預金をイメージしてもよいでしょう。数式上では、短期の借入金はマイナスの安全資産(─B)として扱います。
|
株式オプションを例にとり、原資産である株式とマイナスの安全資産である借入金で、オプションと同じキャッシュフローを模倣してみましょう。
数式 C=ΔS─B
とおき、これを使ってオプションが上昇した場合(Cu)と下降した場合(Cd)の連立方程式を設定します。R=(1+r)で r
は安全利子率を意味します。r が1%であるとき、Rは1.01となります。
|
C=ΔS−B |
/ \ |
Cu=ΔuS−RB … (1) |
|
Cd=ΔdS−RB …
(2) |
Δ(デルタ):ヘッジ比率、S:原資産価格、C:コールオプション価格、B:借入金(負の安全資産) |
|
この連立方程式をΔ(デルタ)とBについて解くと、
|
|
|
|
B |
= |
1
R |
・
|
d・Cu−u・Cd
(u−d) | |
C=ΔS−B だから、
|
|
Cu−Cd
(u−d) |
−
|
1
R |
・
|
d・Cu−u・Cd
(u−d) |
|
C |
= |
|
|
|
ただし、 |
U=e
σ√t/n |
d=1/U |
R=e r
・t/n |
※ここで、R=er・t/n は、現在価値を計算する割引率を示しています。
さらに、P=(R−d)/(u−d)とおくと、この計算式は、下記のように変形できます。
P=確率、n=期間数、 r=短期金利、t
=期間、q=原資産利回り、e=ネピアの数(すう)
この式は、オプションの期待値(平均値)を求め、そこから現在価値を計算することを意味しています。
ここで、原資産が利回り q %をもつ場合には、r
%を(r−q)%に入れ替えて、Pを計算します。 P=〔e(r−q)t−d)/(u−d)〕 q
は、原資産が株式の場合は配当利回り、原資産が外国為替の場合は外国通貨の金利を意味します。 |
参考 :
連立方程式の計算
≪2項モデル計算の実際≫
2項モデルでは、格子数が多いほど計算は正確になります。しかし、計算時間も長くなるため、通常35期間ぐらいで計算しています。35期間でも、630回(35×36÷2=630)もの繰り返し計算が必要になります。
オプション価格は、次の3つのステップで計算されます。
(1)原資産がどのように変動するか、各格子点順に満期日まで原資産価格を計算します。 (2)満期日のオプションの行使価値(本源価値)を計算します。 (3)2項モデル式を使って、満期日のオプション価値から1期間ずつ、格子を現在までさかのぼる後戻し計算をします。
◆ヨーロピアンタイプのオプション計算
|
ヨーロピアンコールオプション
|
上段の計算式 (原資産価格) |
原資産価格が上昇した場合…U=e
σ√t/n 下降した場合…d=1/U |
|
下段の計算式 (オプション価格) |
|
| 原資産価格 S=100 |
行使価格 K=100 |
期間 t=0.5 (6ヶ月) |
ボラティリティ σ=0.3 (30%) |
| 短期金利 r=0.1(10%) |
原資産利回りq=0.2 (20%) |
期間数 n=4 (期間6ヶ月を4つに分割) |
e=ネピアの数(すう) |
コールオプション価格 : 5.25
|
表の上段 原資産価格 下段
オプション価格 |
|
|
|
1期目 |
|
2期目 |
|
3期目 |
|
4期目 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
\
|
|
/
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
\
|
|
/
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/ |
|
\
|
|
/
|
|
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
\
|
|
|
|
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
/
|
|
|
|
|
|
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
\
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
※下段のオプション価格は、1〜3期目はオプションを保有しているときのオプション価値、4期目はオプションを行使したときのオプション価格となります。
≪解説≫
原資産価格が上昇し続けた場合を例にとって計算してみましょう。
|
上段の計算方法 |
U=eσ√t/n |
|
現在→1期目 |
原資産価格100×U=111.19 |
|
1期目→2期目 |
原資産価格111.19×U=123.63 |
|
2期目→3期目 |
原資産価格123.63×U=137.46 |
|
3期目→4期目 |
原資産価格137.46×U=152.85 |
オプション価格をさかのぼる後戻し計算をしてみましょう。
|
下段の計算方法 |
|
|
4期目→3期目 |
Cu=52.85 Cd=23.63 で計算すると、C=35.31 |
|
3期目→2期目 |
Cu=35.31 Cd=9.69 で計算すると、C=20.07 |
|
2期目→1期目 |
Cu=20.07 Cd=3.97 で計算すると、C=10.52 |
|
1期目→現在 |
Cu=10.52 Cd=1.63 で計算すると、C=5.25 |
|
◆アメリカンタイプのオプション計算
2項モデルでは、アメリカンタイプ(満期日前にいつでも行使できる)のプレミアム計算が行えます。オプションが満期日前に行使されるのは、満期日まで保有するより有利な場合です。2項モデルでは、オプションを早期に行使した方が有利かどうか、各ノ−ド(格子点)で調べることができます。
アメリカンタイプの計算は、各ノードで行使した場合の実現価値と、2項モデルで一期先の期待値から計算したオプション価値(保有価値)を比べて、大きい方をその時点のオプション価値として、格子をさかのぼっていく方法です。 ※実現価値とは、オプションを早期に行使した場合のオプション価値のことです。これを行使価値と呼ぶと行使価格と混同しやすいので、実現価値と言い換えさせていただきました。
|