金融大学(金融大学講座)

金融取引入門講座 第2回 通貨の種類と役割

1.お金って何?

 

≪物々交換≫

 

古代、まだお金が存在しなかった時代には、人々は物々交換で品物のやりとりをしていました。物々交換とは、自分が所有する品物と、他人が所有する品物とをお互いに取りかえることです。人類にとって、はじめて行われた経済取引だと考えられています。

 

しかし、物々交換は、あまり便利な方法ではありませんでした。交換する品物が偶然に同じ価値であればよいのですが、あまりにもその価値が離れていると交換が成り立ちません。また、交換したい商品がうまく合う人を見つけるのも大変でした。そこで、交換できる共通の物として生まれたのが「貨幣」です。

 

≪物品貨幣≫

 

時の経過とともに腐ってしまう食べ物や壊れやすい消耗品などは、通貨として不都合です。そこで、当初は、貝殻・石・布・米などが通貨として使われました。これを、物品貨幣といいます。物品貨幣は、貨幣の素材によって、自然貨幣と商品貨幣に分けられます。

 

◆自然貨幣

 

まず、貝殻・石・骨などの、自然のものを素材とした貨幣が使われるようになりました。これを、自然貨幣といいます。自然貨幣は、宗教や呪術を背景としたものでした。貨幣そのものに価値はなく、通貨として使うには無理がありました。

 

◆商品貨幣

 

つぎに、布・米・家畜・穀物などが貨幣として使われるようになりました。商品そのものを貨幣として使ったため、商品貨幣と呼ばれています。しかし、商品貨幣は持ち運びが不便であったことから、金属貨幣(金貨、銀貨、銅貨など)へと移行していきます。

 

通貨の種類と役割

 

※ここでは、物品貨幣と金属貨幣を分けて説明していますが、金属貨幣も物品貨幣に含むとする考えもあります。

 

≪金属貨幣≫

 

金属貨幣は、金、銀、銅などの金属で作られた貨幣です。布、米、家畜、穀物などの商品貨幣は持ち運びが不便であったため、持ち運びに便利で壊れにくい金属貨幣が利用されるようになりました。金属貨幣は、秤量貨幣(ひょうりょうかへい)と鋳造貨幣(ちゅうぞうかへい)に分けることができます。

 

通貨の種類と役割

 

◆秤量貨幣(ひょうりょうかへい)

 

まず、商品貨幣としての性質を残す秤量貨幣が使われました。秤量貨幣は、金属を重さで量って貨幣として使用したものです。そのため、貫(かん)や匁(もんめ)などの重さが、単位として使われました。金属の価値と貨幣の金額が等しい貨幣です。

 

◆鋳造貨幣(ちゅうぞうかへい)

 

やがて、金属を溶かし型に流してつくった鋳造貨幣が使われるようになりました。鋳造貨幣は、金貨の価値とは関係なく、信用貨幣(しんようかへい)としての性質を持っていました。
※信用貨幣とは、管理通貨制度の下で発行される、金貨との交換を保証しない貨幣のことです。国の信用で流通するお金なので、信用貨幣といいます。

 

鋳造貨幣は、額面を表示するところから計数貨幣(けいすうかへい)と呼ばれています。計数貨幣とは、一定の形状をもち、一定の品位と重量を刻印で保証した通貨です。江戸時代に発行された、大判や小判などがこれにあたります。

 

日本最古の鋳造貨幣

 

これまで、日本最古の鋳造貨幣は、8世紀初頭に生まれた「和同開珎(わどうかいちん)」とされていました。しかし、奈良県の飛鳥池(あすかいけ)遺跡から、7世紀後半のものと推測される「富本銭(ふほんせん)」が発見され、話題を呼んでいます。
※和同開珎の読み方には、「わどうかいちん」と「わどうかいほう」の2通りの説があります。

 

≪兌換紙幣(だかんしへい)≫

 

日本の貨幣制度は、明治時代に入って大きな変革期を迎えました。金属貨幣にかわって紙幣が通貨の主役となりました。

 

◆太政官札の発行

 

1868(明治元)年、明治政府は太政官札(だじょうかんさつ)を発行しました。

 

太政官札は、政府が発行した初めての紙幣です。江戸時代には、各藩が藩札(はんさつ)という形で紙幣を発行していたのですが、幕府が発行した藩札はなく、その流通は地方に限定されていました。

 

◆金本位制の採用と円の制定

 

1871(明治4)年、明治政府は新貨条例(しんかじょうれい)を公布しました。これにより、金本位制が採用されましたが、金貨不足から銀貨の利用が続きました。

 

金本位制とは、金を本位貨幣(通貨価値の基準)とする制度です。中央銀行が、発行した紙幣と同額の金を常時保管し、金と紙幣との兌換を保証するというものです。このように、発行者の信用で、同額の金貨や銀貨に交換することを約束した紙幣のことを兌換紙幣といいます。

 

また、通貨単位として「円(えん)」を制定し、1円を金1.5gと定めました。1円より小さな単位には「銭(せん)」、「厘(りん)」を使い、1円=100銭、1銭=10厘と取り決めました。
※1953(昭和28)年に通貨単位の「銭」「厘」は廃止されました。しかし、債券や為替取引の世界では、1円未満の表記に引き続き「銭」という単位を使っています。

 

◆兌換紙幣の発行

 

1882(明治15)年には日本銀行が設立され、1884(明治17)年には日本銀行兌換銀券の発行を定める兌換銀行券条例(だかんぎんこうけんじょうれい)が公布されました。

 

1885(明治18)年には、日本銀行が日本銀行兌換銀券を発行しました。これは、政府が同額の銀貨と交換することを保証した兌換紙幣です。

 

◆金本位制の確定

 

1897(明治30)年になると、明治政府は、金のみを本位貨幣(通貨価値の基準)とする貨幣法(かへいほう)を公布し、金本位制が確立しました。また、1円を金0.75gと定めました。

 

1899(明治32)年には、日本銀行が日本銀行兌換券を発行しました。これは、政府が同額の金貨と交換することを保証した兌換紙幣です。

 

その後、1931(昭和6)年12月の金貨兌換停止により、金本位制は終幕を迎えました。

 

≪不換紙幣(ふかんしへい)≫

 

1931(昭和6)年に金の輸出を禁止して兌換を停止したことで、事実上、日本銀行券は兌換紙幣ではなくなりました。1942(昭和17)年には日本銀行法が制定され、兌換義務のない不換紙幣が発行できるようになり、法律上も兌換の義務がなくなりました。この法律により、日本の通貨制度は金本位制度から管理通貨制度へ移行することとなりました。

 

不換紙幣とは、管理通貨制度(国が通貨の流通量を管理調節する制度)の下で発行される、金貨との交換を保証しない紙幣です。国の信用で流通するお金であることから、信用貨幣と呼んでいます。

 

管理通貨制度への移行は、時代の趨勢(すうせい)と言えます。経済が急速に発展すると、金の生産量が追いつかなくなり、金本位制を保持することがむずかしくなるからです。信用貨幣を支えるものは、国の信用です。この信用を高めるためにも、政府の情報開示のあり方が重要になっているのです。

 

通貨の種類と役割

 

 

 

2.お金の種類

 

お金といえば、お財布の中の紙幣(日銀券)と硬貨(補助貨幣)を想い浮かべます。これを現金通貨といいます。しかし、もう1つ、私達の生活の中でお財布がわりになっているものがあります。銀行の預金です。銀行預金は、現金が足りなくなるといつでも引き出すことができます。また、クレジットカードで買い物をする人も増えてきました。この買い物の支払いは、銀行の預金口座からなされています。預金も立派なお金の役割を果たしています。これを預金通貨と呼んでいます。

 

通貨の種類と役割

 

日銀券は日本の中央銀行である日本銀行が発行し、硬貨は補助貨幣として政府が発行しています。紙幣の印刷は独立行政法人「国立印刷局」で、硬貨の鋳造は独立行政法人「造幣局」が受け持っています。いずれも受払いは、日銀の窓口を通して行っています。

 

※2003(平成15)年4月から、財務省印刷局(旧 大蔵省印刷局)は独立行政法人「国立印刷局」に、財務省造幣局(旧 大蔵省造幣局)は独立行政法人「造幣局」になりました。

 

民間銀行は、日銀に「預け金口座」を持っています。一方、企業や個人は、民間銀行に「預金口座」を持っています。発行された現金通貨は、日銀から民間銀行を通して個人や企業に供給されています。日銀は、民間の銀行が口座を設けているところから、銀行の銀行とも呼んでいます。

 

 

 

3.信用創造

 

「預金通貨」は、銀行に預けられている当座預金普通預金です。日銀の発行した「現金通貨」は、銀行の口座に入ると、「預金通貨」へと変身します。銀行は、預かったお金を企業に貸し付けたり、有価証券に投資して利益を得ようとします。

 

≪信用創造の仕組み≫

 

銀行は、預金という形で大勢の預金者からお金を預かり、預金者がいつでも預金を払い戻せるように、現金を用意しています。預金者の中には、預金をすぐに払い戻す人もいれば、長期間預けておく人もいます。預金者全員がすぐに預金を払い戻すことはまずないので、銀行は預金の全額を現金で用意しておく必要はありません。預金の一部を支払準備として現金で手元に置いておき、残りの預金を企業への貸付に回すことができます。
企業に貸し出されたお金は、取引先の支払いに充てられます。支払いを受けた取引先は、このお金をすぐに使う当てがなければ、銀行に預けることになります。銀行は、支払準備分を手元に残して、残りをまた貸出しに回します。これを繰り返すと、預金通貨というお金が新しく生み出され、銀行全体の預金残高は、どんどん増えていきます。これを「信用創造」と呼んでいます。

 

通貨の種類と役割

 

預金者から現金で銀行に預けられる最初の預金のことを本源的預金といいます。本源的預金は、信用創造の基礎となるお金です。本源的預金をもとに信用創造されたお金のことを派生的預金といいます。

 

銀行は、預金者が預金を払い戻す場合を想定して、預金の一定割合の現金を手元に置いておく(日本銀行に預ける)ことが義務づけられています。この準備金のことを法定準備預金といい、預金に対する法定準備預金の割合のことを法定準備率(支払準備率)といいます。

 

≪信用創造の計算≫

 

銀行が、預金者から100円を預かったとします。法定準備率を10%とすると、10円だけを現金で銀行に残し、残りの90円(元本の90%)をA企業に貸付けることができます。A企業は、銀行から借りたお金で、取引先であるB企業に支払いをします。B企業はそのお金を銀行に預け、銀行にはB企業の預金90円が新たに作られます。銀行は、90円の90%である81円を、C企業に貸付けます。そしてC企業よりD企業に渡り、再び銀行に預金されます。銀行では81円の90%をE企業に貸付けることになります。

 

通貨の種類と役割

 

このように、お金が銀行と企業の間を循環することによって、銀行の預金通貨はどんどん増えていきます。これが信用創造です。現金通貨が、数倍の預金通貨に生まれ変わります。

 

例えば、最初の預金100円、法定準備率10%なら、90円が銀行から貸し出されます。その場合、預金通貨は10倍に膨らみます。
最初の銀行に100円を預金し、次の銀行に90円、その次の銀行に81円…。これをずっと合計していくと、預金は、100+90+81+72.9+65.61+59.049…=1000円になるのです。

 

通貨の種類と役割

 

◆無限等比級数の和の公式

 

無限等比級数の和の公式を利用すると、信用創造によって預金が「いくらに増えるのか」、または「何倍に膨らむのか」という計算が簡単にできます。

 

(1)最初の預金÷法定準備率

 

最初の預金を法定準備率で割ると、最初の預金(本源的預金)が何円に増えるか計算できます。
最初の預金が100円で、法定準備率が10%であれば、預金総額は 100÷0.1=1000円 に増えることがわかります。

 

但し、預金の増加額(信用創造額)は、預金総額1000円から最初の預金100円を差し引いた900円(1000円-100円=900円)となります。

 

(2)1÷法定準備率

 

最初の預金を1として法定準備率で割ると、最初の預金(本源的預金)が何倍に膨らむか計算できます。
最初の預金100円、法定準備率10%であれば、1÷0.1=10倍に膨らむことがわかります。

 

通貨の種類と役割

 

※上記の計算式は、「現金預金比率をゼロ」と仮定したものです。
「現金預金比率がゼロ」とは、民間(企業や個人)が現金を一切所有せずに、100%預金している状態をいいます。

 

この信用創造の仕組みは、景気刺激策の効果を考えるのに、とても役立ちます。新たに発行する10兆円のお金が、100兆円のお金の役割を果たすかもしれないからです。

 

通貨の種類と役割

 

(例)最初の預金100円、法定準備率20%で、預金の80%を貸し出すなら、最初の預金は500円に増えます。
   100÷(1-0.8)=100÷0.2=500円

 

(例)最初の預金100円、法定準備率10%で、預金の90%を貸し出すなら、最初の預金は1000円に増えます。
   100÷(1-0.9)=100÷0.1=1000円

 

 

 

4.お金の役割

 

お金には、大きく分けて(1)価値の尺度、(2)交換(決済)手段、(3)価値貯蔵手段 という3つの役割があります。

 

通貨の種類と役割

 

(1)価値の尺度

 

お金は、あらゆる品物に値段をつけることで、モノの価値をあらわします。

 

物々交換の時代には、例えばりんご3個とみかん8個を取りかえる…など、モノの価値があいまいで統一性がありませんでした。しかし、貨幣を使うことでモノの価値を同一の尺度ではかることが可能になり、1つ1つのモノの価値を明確に捉えられるようになりました。

 

このように、貨幣は、モノの価値をはかる基準として使われています。お金(値段)によって、モノの価値を比較したり、判断したりすることができます。これが、貨幣の「価値の尺度」としての役割です。

 

(2)交換(決済)手段

 

お金は、交換(決済)を行う時の支払手段として利用しています。

 

物々交換の時代には、お互いの品物が等価値でないと交換できませんでした。しかし、貨幣を使うことで、いつでも好きな品物と交換したり、決済したりできるようになりました。

 

このように、貨幣は、モノとモノとの交換を媒介しています。これが、貨幣の「交換(決済)手段」としての役割です。

 

※「交換手段」は、商品取引が交換ではなく売買によって行われ、その支払時に貨幣が媒介機能を果たしているところから、「支払手段」とか「媒介手段」とも呼んでいます。また、商品取引の過程で、貨幣が商品の売り手と買い手の間を流通し続けることから、「流通手段」とも呼んでいます。

 

(3)価値貯蔵手段

 

お金は、貯蓄することで、将来に備えてお金の価値をたくわえることができます。

 

お金は、モノと違って腐ることはありません。貯めておけば、いつでも好きなときにモノと交換(購入)することができます。たくさん貯めておけば、高価なモノと交換(購入)することもできます。

 

このように、商品を購入せずに貯めておけるお金のことを「貯蔵貨幣」といいます。お金の価値は明日になっても変わらないので、貯蔵手段になります。これが、貨幣の「価値貯蔵手段」としての役割です。

 

 

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まとめ

貨幣
  物品貨幣…貝殻・石・布・米など
  金属貨幣…金貨、銀貨、銅貨など
  兌換紙幣…同額の金貨や銀貨に交換することを約束した紙幣
  不換紙幣…金貨との交換を保証しない紙幣
お金の種類
  現金通貨、預金通貨
信用創造
  お金が銀行と企業を循環する過程で、銀行の預金通貨が増える仕組み
お金の3つの役割
  価値の尺度…品物の値段、価値を示す
  交換(決済)手段…品物と交換(決済)できる
  価値貯蔵…貯蓄することができる

 

 

問題と解答
  1. 貝殻・石・布・米などの●●貨幣は、自然貨幣と商品貨幣に分けられます。金貨、銀貨、銅貨などの●●貨幣、は秤量貨幣と鋳造貨幣に分けられます。
  2. (答え)物品、金属

  3. ●●貨幣とは、管理通貨制度の下で発行される、金貨との交換を保証しない貨幣のことです。●の信用で流通するお金です。
  4. (答え)信用、国

  5. 明治政府は、1871年に通貨単位に「円」を制定し、1円=100●としました。1953年に「●」は廃止されましたが、債券や為替取引で1円未満の単位の話をする場合には、「●」という単位を使っています。
  6. (答え)銭、銭、銭

  7. お財布の中の紙幣(日銀券)と硬貨(補助貨幣)のことを●●通貨、要求払預金のことを●●通貨といいます。
  8. (答え)現金、預金

  9. 日銀券は、●●銀行が発行し、独立行政法人「国立印刷局」で印刷しています。硬貨は、●●が発行し、独立行政法人「造幣局」が鋳造しています。
  10. (答え)日本、政府

  11. 民間銀行は日銀に「預け金口座」を持ち、企業や個人は民間銀行に「●●口座」を持っています。日銀は、民間銀行が口座を設けているところから、銀行の●●と呼ばれています。
  12. (答え)預金、銀行

  13. ●●通貨は、当座預金や普通預金です。日銀の発行した「現金通貨」は、銀行の口座に入ると、●●通貨へと変身します。
  14. (答え)預金、預金

  15. 信用●●とは、お金が銀行と企業を循環する過程で、銀行の預金通貨がどんどん増えていく仕組みをいいます。現金通貨は、数倍の●●通貨に生まれ変わります。
  16. (答え)創造、預金

  17. 信用創造は、無限●●級数の和の公式を利用すると簡単に計算できます。最初の預金100円、再貸付率80%の場合、100÷0.2=●●●円となります。
  18. (答え)等比、500

  19. お金には、価値の●●(品物の値段、価値を示す)、●●(決済)手段(品物と交換できる)、価値●●(貯蓄できる)の3つの役割があります。
  20. (答え)尺度、交換、貯蔵

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