|
特別検査とは、金融庁が、大口債務者(融資先)に対する大手銀行の自己査定を検証するものです。
2001(平成13)年9月の「改革先行プログラム」に、不良債権処理促進の一環として盛り込まれました。
自己査定とは、銀行が、融資先企業の資金返済能力(経営状態、返済状況、回収の可能性など)を判断し、債権を正常先・要注意先・要管理先・破たん懸念先などの区分に分類することをいいます。
特別検査は、通常検査とは別に行われます。金融庁の通常検査は決算日時点の銀行査定を事後チェックするものですが、特別検査は銀行査定を事前チェック(銀行の自己査定期間に立ち会う形式で実施)するものであるため、検査結果を決算に反映させることができます。
特別検査では、大口債務者に対する銀行の自己査定が、企業の業況や市場評価に適しているかをチェックします。大手企業が倒産しても銀行が余力を残せるよう、適正な区分による貸倒引当金を積ませます。
◆マイカルの破たん
2001(平成13)年9月14日、大手スーパーのマイカルが破たんし、グループ全体の負債総額は1兆7428億円となりました。
銀行は、マイカルへの融資を比較的健全な「要注意先債権」であると自己査定していました。しかし、マイカルは破たんし、銀行は、貸倒引当金の大幅な不足から多額の損失を出しました。
マイカルの破たんにより、「銀行の自己査定」と「金融庁の通常検査」に対する信頼は失われてしまいました。そこで、信頼回復を図る目的で、大口債務者に対象を絞った特別検査を実施しました。
≪検査の概要≫(金融庁の公表資料より作成)
◆日程
特別検査は、2001(平成13)年10月29日から2002(平成14)年3月末に実施しました。11月から12月に対象債務者を決定し、1月から3月に対象債務者の精査と、そのメインバンクである銀行の自己査定基準の検証などを行い、2002(平成14)年4月12日に検査結果を公表しました。
◆対象銀行:主要13行
対象銀行は、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行、東京三菱銀行、あさひ銀行、UFJ銀行、三井住友銀行、大和銀行、三菱信託銀行、安田信託銀行、UFJ信託銀行、住友信託銀行、中央三井信託銀行の13行です。
※2002(平成14)年4月1日、第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行は、みずほ銀行・みずほコーポレート銀行に再編し、安田信託銀行は、みずほアセット信託銀行に名称変更しました。
◆対象債務者:149社
特別検査では、経営不振の大手企業149社が対象に選ばれ、検査を受けました。
対象となるのは、融資残高が100億円以上あり、市場の評価(株価や格付けなど)が大幅に低下した大口債務者です。
≪検査の結果≫
2002(平成14)年4月12日、金融庁は特別検査の結果として、全業種(149社)を対象とした数値と、不良債権が特に目立つ4業種(98社)を対象とした数値を公表しました。
金融庁は、特別検査の結果、銀行の健全性に問題はないと判断しています。
|
|
|
|
検査結果
2002年3月期 |
全業種 |
下位
遷移 |
破綻懸念
先以下 |
| 対象債務者 |
149社 |
71社 |
34社 |
与信額
(融資額計) |
12.9
兆円 |
7.5
兆円 |
3.7
兆円 |
不良債権処分損
(追加処理額) |
1.9兆円
直接償却費+引当増加額 |
|
|
検査結果
2002年3月期 |
4業種 |
下位
遷移 |
破綻懸念
先以下 |
| 対象債務者 |
98社 |
47社 |
26社 |
与信額
(融資額計) |
10.5
兆円 |
6.3
兆円 |
3.3
兆円 |
不良債権処分損
(追加処理額) |
1.7兆円
直接償却費+引当増加額 |
|
|
※下位遷移…銀行の自己査定(2001年9月期中間決算時)より、査定を引き下げられた債務者
※破綻懸念先以下…破たん懸念先、実質破たん先、破たん先に引き下げられた債務者
※4業種…建設業、不動産業、卸小売業、その他金融業のこと
※直接償却…不良債権を帳簿から切り離してオフバランス化すること。
銀行の債権放棄、法的整理(会社更正法の適用)、債権の売却 の3つの方法がある。 |
銀行の債権は、債務者の経営状態によって、正常先・要注意先・破たん懸念先・実質破たん先・破たん先の5つに分類されます。要注意先のうち、返済が遅滞している債権を「要管理先」といいます。要管理先以下の債権が、不良債権となります。
|
|
|
下 位 遷 移 状 況
|
全業種 |
4業種 |
|
2001年9月 |
2002年3月 |
2001年9月
|
2002年3月
|
|
債務者区分
|
引 当 率 |
企業 |
金額 |
企業 |
金額 |
企業
|
金額
|
企業
|
金額
|
|
正常先
|
債権額の1%未満 |
50 |
3.2 |
35 |
2.4 |
24
|
2.2
|
18
|
1.8
|
|
要注意先
|
債権額の3〜5% |
56 |
6.4 |
35 |
2.6 |
39
|
5.5
|
20
|
2.0
|
|
要管理先
|
債権(無担保部分)の15% |
43 |
3.2 |
45 |
4.2 |
35
|
2.8
|
34
|
3.4
|
|
破綻懸念先
|
債権(無担保部分)の70% |
|
|
34 |
3.7 |
|
|
26
|
3.3
|
|
実質破綻先 |
債権(無担保部分)の100% |
|
破綻先 |
|
合 計
|
|
149 |
12.8 |
149 |
12.9 |
98
|
10.5
|
98
|
10.5
|
|
|
(金額の単位:兆円)
|
要管理先債権が破たん懸念先以下に分類されると、多額の貸倒引当金の積み増しが必要となり、銀行の負担が増加してしまいます。不良債権の劣化を防ぎ、より健全化させることが大切です。
一方、特別検査で破たん懸念先以下に区分された企業には、(1)銀行の債権放棄、(2)法的整理(会社更正法の適用)、(3)RCC(整理回収機構)などへの債権売却 などの措置が求められます。
参考 : 直接償却と間接償却 不良債権
≪金融システム強化のための新施策≫
金融庁は、2002(平成14)年4月12日(特別検査の結果公表と同日)、「より強固な金融システムの構築に向けた施策」の要旨を発表しました。
これまで、不良債権の最終処理目標を3年以内としてきましたが、それを1年以内に5割、2年以内に8割と細分化した目標を掲げました。また、専任検査チームの設置と、中小企業に対する貸し渋り対策も盛り込みました。
|
金融システム強化のための新施策
|
|
不良債権処理の促進
|
主要行の「破たん懸念先」以下の債権(新規発生分)を3年以内に処理する目標を、原則1年以内に5割、2年以内に8割とする。
|
|
RCC(整理回収機構)を積極的に活用する。
|
|
主要銀行グループへの
通年検査の導入
|
主要銀行グループ別に、民間の専門家を登用した専任検査班を再編成し、1年を通じて同一グループを検査する。
|
|
金融機関の合併促進
|
地域金融機関の合併促進などを検討し、経営基盤の強化や、中小企業金融の円滑化を図る。
|
|
中小企業向け検査の
適正化
|
金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」を作成し、中小企業の経営実態に適した検査を実施する。
|
≪補足≫
◆2002(平成14)年3月期の財務内容(主要13行)
|
|
2002年3月期
|
|
不良債権処分損
|
7.8兆円 (旧東海銀行を除くと7.1兆円)
|
|
実質業務純益
|
4兆円
|
|
経常利益
|
4.9兆円の赤字
|
|
当期利益
|
3.4兆円の赤字
|
|
その他有価証券の減損処理
(持ち合い株を含む)
|
1.5兆円
|
|
その他有価証券の評価差額
|
1.4兆円の評価差損 (このうち、株式は▲1.3兆円)
|
|
単体自己資本比率
|
国際基準行…10%台前半〜11%台半ば
国内基準行… 8%台前半〜10%台半ば
|
|
※自己資本比率…国際統一基準は8%以上、国内基準は4%以上
|
◆2002(平成14)年3月期の財務内容(銀行別)
|
グループ名 |
銀行名 |
業務純益 |
不良債権
処理額 |
株式含み
損益 |
最終損益 |
自己資本比率 |
|
みずほ
フィナン
シャル
グループ |
グループ全体 |
10070 |
24100 |
▲ 7600 |
▲11100 |
|
|
旧
第一勧業銀行 |
3500 |
10500 |
▲ 1800 |
▲ 4100 |
10%台半ば |
|
旧 富士銀行 |
3800 |
5200 |
▲ 2900 |
▲ 1300 |
10%台半ば |
|
旧
日本興業銀行 |
2100 |
6600 |
▲ 2600 |
▲ 3900 |
11%台前半 |
|
旧
安田信託銀行 |
670 |
1800 |
▲ 300 |
▲ 1800 |
10%台半ば |
|
三菱東京
フィナン
シャル
グループ |
グループ全体 |
6250 |
6850 |
0 |
▲ 2390 |
|
|
東京三菱銀行 |
4700 |
5000 |
600 |
▲ 2400 |
10%台前半 |
|
三菱信託銀行 |
1550 |
1850 |
▲ 600 |
10 |
10%台後半 |
|
UFJ
ホール
ディングス |
グループ全体 |
6100 |
12700
19550 |
1050 |
▲ 4100
▲11229 |
|
|
UFJ銀行 |
4900 |
10650 |
1900 |
▲ 2850 |
10%台半ば |
|
UFJ信託銀行 |
1200 |
2050 |
▲ 850 |
▲ 1250 |
9%台半ば |
|
|
三井住友銀行 |
11800 |
15500 |
▲ 5000 |
▲ 3200 |
11%台半ば |
|
大和銀
ホール
ディングス |
グループ全体 |
3040 |
9300 |
▲ 895 |
▲10000 |
|
|
あさひ銀行 |
1900 |
5300 |
▲ 300 |
▲ 5700 |
8%台半ば |
|
大和銀行 |
1140 |
4000 |
▲ 595 |
▲ 4300 |
8%台前半 |
|
|
中央三井信託銀行 |
1550 |
1700 |
100 |
▲ 2900 |
10%程度 |
|
|
住友信託銀行 |
1500 |
1100 |
▲ 500 |
▲ 400 |
11%前後 |
|
合計 |
13行 |
40310 |
71250
78100 |
▲12845 |
▲34090
▲41219 |
10%台半ば |
|
は、2002(平成14)年1月15日に三和銀行との合併(現UFJ)により消滅した東海銀行を含めた数字。 (金額の単位:億円) |
参考 : 特別検査(2003年3月期) 特別検査フォローアップ(2003年9月期) 自己資本比率
特別検査(2004年3月期) 特別検査(2004年9月期)
|