金融大学(金融大学講座)

金融取引入門講座 第6回 金融市場

金融市場とは、金融機関を主な取引参加者としてお金の貸し借りを行う場のことです。市場は、物理的な場所がなくても、取引情報が一箇所に集められるところに構築されます。現在の金融市場は、電話回線で繋がった取引ネットワークのことを指します。

 

金融市場は、取引期間の長短によって、短期金融市場と長期金融市場に分けられます。短期金融市場とは、期間1年未満の資金を融通する市場です。一方、長期金融市場とは、1年以上の資金を融通する市場です。

 

金融市場

 

個人や企業が銀行におく預金取引やローン取引を、預貸金市場と呼んでいます。この取引は、長短双方の市場に属する取引のため、ここでは、別個に扱うことにします。

 

※市場(しじょう)
市場とは、通常、専門業者の仲介で不特定多数の者が取引を行う場のことを指しますが、売り手1人に買い手1人の相対取引(あいたいとりひき)の場も、広い意味で市場と呼んでいます。また、証券取引所のような特定の場所で行われない取引、銀行の店頭で行う預金取引、電話回線を通して行われる取引にも市場という用語を使っています。

 

 

 

1.短期金融市場

 

短期金融市場とは、期間1年未満の金融取引が行われる市場で、マネーマーケットとも呼んでいます。 短期金融市場は、金融機関や一般の事業法人が資金を調達する場です。また、日本銀行が公開市場操作などを行って金融を調節する場にもなっています。

 

短期金融市場は、取引参加者が金融機関に限定されるインターバンク市場と、一般の事業法人が自由に参加できるオープン市場に分けられます。

 

金融市場

 

(A)インターバンク市場

 

インターバンク市場は、金融機関が相互の資金の運用と調達を行う場です。取引参加者は金融機関に限定され、資金の出し手、取り手の間を短資会社が仲介しています。

 

インターバンク市場には、コール市場、手形売買市場、東京ドル・コール市場があります。

 

金融市場

 

≪コール市場≫

 

コール市場は、金融機関のごく短期の資金(原則として1ヶ月未満)の貸借を行う市場です。「呼べばこたえる」というところから、「コール」という名がついています。

 

コール市場は、1902(明治35)年頃から、銀行を中心とする金融機関が、日々の資金過不足を最終的に調整しあう場として、自然発生的に成立しました。コール取引は、当初は無担保ベースで行われていましたが、1927(昭和2)年の金融恐慌の後、有担保ベースで行われるようになりました。

 

その後、金融の自由化・国際化に伴う影響から、1985(昭和60)年7月に無担保コール市場が創設され大きく成長しました。しかし、1999(平成11)年2月に日本銀行が導入した「ゼロ金利政策」により、無担保コールの市場規模は有担保コールと同程度まで縮小しています。
※ゼロ金利政策とは、日本銀行がコール市場に資金を大量に供給して、無担保コール翌日物(オーバーナイト物)の金利をほぼゼロに近い状態にまで低くするという金融政策です。

 

◆有担保コールと無担保コール

 

コール取引には、担保を必要とする有担保コールと、担保を必要としない無担保コールがあります。

 

有担保コール

 

有担保コールは、担保(日銀適格担保)のもとに行われる取引です。日銀適格担保とは、日銀からの借入の担保に使用できるもの(国債など)をいいます。

 

有担保コールでは、短資会社はディーリング取引を行っています。ディーリング取引とは、短資会社が、自己勘定で資金の調達・貸付けを行う取引です。資金の取り手(借りる側)に対するリスクは、短資会社が負います。

 

短資会社が資金の出し手(貸す側)から調達した資金のことをコールマネー、資金の取り手(借りる側)に貸付けた資金のことをコールローンと呼んでいます。

 

無担保コール

 

無担保コールは、担保を必要としない取引です。

 

無担保コールでは、短資会社はブローキング取引を行っています。ブローキング取引とは、短資会社が、オファー・ビッド方式における、資金の出し手と取り手の出合いを仲介する取引です。資金の取り手(借りる側)に対するリスクは、資金の出し手(貸す側)が負います。

 

オファー・ビッド方式とは、資金の出し手・取り手の双方が、短資会社に取引条件(取引金額・レート・期間など)の提示を行い、条件の合致により出合いが成立する取引方法です。

 

金融市場

 

◆取引の種類

 

コール取引には、約定日に決済を行う「半日物取引」、約定日に取組み翌営業日に決済を行う「翌日物取引」、取組日・決済日を自由に設定できる「期日(ターム)物取引」があります。

 

≪手形売買市場≫

 

手形売買市場は、短期資金(翌日物から1年物)を融通する貸借市場です。優良企業の発行する手形を、割引の方法によって売買する形で資金の融通を行います。

 

手形売買市場では、短資会社はディーリング取引を行っています。ディーリング取引とは、短資会社が、自己勘定で資金の調達・貸付けを行う取引です。資金の取り手(借りる側)から手形を買入れ、資金の出し手(貸す側)に売り渡します。資金の取り手(借りる側)に対する信用リスクは、短資会社が負います。

 

◆手形売買市場の創設

 

手形売買市場は、1971(昭和46)年5月にコール市場から分離して創設されました。コール市場よりも、期間が長めの取引を扱います。

 

手形オペの導入

 

1972(昭和47)年、政府の金融調節手段として、手形オペが導入されました。手形オペとは、日銀と金融機関の間で手形を売買することで行われる金融調節のことです。

 

日銀が手形を売却することで資金を吸収し、金融引き締めを行うことを売りオペレーションといいます。逆に、日銀が手形を買い取ることで資金を供給し、金融緩和を行うことを買いオペレーションといいます。

 

◆手形売買方法

 

手形を売買するには、「原手形」を直接売買する方法と、原手形を担保にして「表紙手形」を売買する方法があります。

 

金融市場

 

「原手形」を直接売買する方法

 

信用度の高い企業が振り出した優良手形を、原手形といいます。銀行が取得した手形(商業手形・工業手形・単名手形など)に、銀行が直接裏書をして売買します。

 

原手形を担保にして「表紙手形」を売買する方法

 

銀行振出手形(銀行が自己引受、短資会社を受取人とする為替手形)を、表紙手形といいます。原手形(優良手形)を担保として、金融機関が振り出した表紙手形を売買します。

 

≪東京ドル・コール市場≫

 

東京ドル・コール市場は、外国為替公認銀行間で短期の外貨資金貸借取引を行う場として、1972(昭和47)年4月に創設されました。

 

東京ドル・コール市場は、非居住者の参加はできません。そのため、取引の中心は、非居住者が参加できる東京オフショア市場に移行しています。

 

◆東京オフショア市場

 

東京オフショア市場(JOM:Japan Offshore Market)は、東京市場の国際化を図るために、1986(昭和61)年12月に創設されました。

 

東京オフショア市場は、非居住者が自由に参加できる市場です。国内の金融市場とは分断され、金利規制、預金準備率、源泉税などは課されません。非居住者間の取引のみを自由としています。

 

(B)オープン市場

 

オープン市場は、一般の事業法人が自由に参加できる市場です。金融機関、証券会社、事業法人、外国企業、公的機関などが参加しています。

 

オープン市場は、CD、債券現先、債券レポ、CP、FB、TB、円建BAなどの取引市場から成り立っています。

 

金融市場

 

≪CD市場(譲渡性預金)≫

 

CDは、譲渡性預金証書(negotiable certificate of deposit)の略称です。第三者に譲渡可能な銀行の預金証書のことをいいます。

 

◆CD市場の創設

 

CDは、1961(昭和36)年に米銀によって導入された金融商品です。日本のCD市場は、1979(昭和54)年5月に証券会社の債券現先取引に対抗して創設されました。銀行が企業の余裕資金を吸い上げる手段として考え出された取引で、日本の自由金利商品の先駆けとなりました。

 

◆CDの取引方法

 

CDの取引方法には、無条件売買(買切りないしは売切り)の方法と、債券現先をまねた条件付売買(CD現先)の方法があります。実際の取引は、CD現先が中心となって行われています。

 

条件付売買とは

 

一定期間後に一定価格での反対売買を約束して行う債券やCDの購入(売却)取引のことを、現先取引または条件付売買といいます。債券を売買する取引を債券現先、CDを売買する取引をCD現先と呼んでいます。

 

買い戻し条件付きで売ることを売り現先または現先といいます。逆に、売り戻し条件付きで買うことを買い現先または逆現先といいます。

 

≪債券現先市場≫

 

債券現先は、一定期間後に一定価格での反対売買を約束して行う債券の購入(売却)取引です。

 

債券現先市場は、証券会社の重要な資金調達手段として、オープン市場で最初に発達した取引です。証券会社は、売り現先を行うことで資金を調達しています。

 

◆債券レポとの違い

 

債券現先取引は、表面上は債券売買ですが、実質的には債券を担保とする短期の資金貸借取引です。似たような取引に、債券貸借取引(債券レポ)があります。

 

債券現先取引は、債券を担保に現金を貸し借りします。債券貸借取引は、現金を担保に債券を貸し借りします。債券と現金のどちらに注目しているかの違いだけで、実質は同じ取引です。

 

◆目的による分類

 

債券現先取引は、目的に応じて、(1)自己現先、(2)委託現先、(3)直現先に分けることができます。

 

自己現先
自己現先とは、証券会社が自社の資金繰りのために、自己の保有する債券を担保に、資金を調達する売り現先のことです。自己保有の債券を、買い戻し条件付きで売却します。

 

委託現先
委託現先とは、証券会社が仲介する取引のことで、顧客の委託を受けて行う売り現先です。顧客は、証券会社に手持ちの債券を買い戻し条件付きで売却します。証券会社は、この債券を同日、買い戻し条件付きで売却します。

 

直現先
直現先とは、都市銀行などの金融機関が、証券会社を経由しないで直接、事業法人などに対して行う売り現先のことです。売り手と買い手が、証券会社を通さず直接行う取引です。

 

金融市場

 

≪債券レポ(債券貸借取引)≫

 

債券レポ市場(債券貸借取引市場)は、品貸料をとって債券の貸借を行う市場です。

 

◆債券レポ市場の創設

 

債券レポ市場は、現金を担保に債券を貸し借りするので、現金担保付債券貸借取引市場とも呼ばれています。1989(平成1)年に創設された貸債(かしさい)市場を発展させて、1996(平成8)年4月に創設されました。

 

貸債市場は、空売りした国債の手当てのために、国債を貸し借りする市場です。債券現先取引と区別するために、差し入れる担保の金額や金利に規制がつけられていたので、無担保ベースの市場として発展してきました。1995(平成7)年末、債券現先取引と区別するための取引規制が取り払われ、現金を担保とする有担保の市場へ衣替えとなりました。

 

◆債券現先取引との違い

 

債券現先取引は、債券を担保に現金を貸し借りします。債券レポ市場は、現金を担保に債券を貸し借りします。債券と現金のどちらに注目しているかの違いだけで、実質は同じ取引です。

 

債券現先取引は、主に証券会社が自社の債券を担保に資金を調達する市場です。一方、債券レポ市場は、銀行、証券会社など、すべての金融機関が自由に参加できる市場です。そのため、債券レポ市場は、債券現先市場にかわって市場を拡大させています。

 

金融市場

 

≪CP市場≫

 

CPは、コマーシャルペーパー(Commercial Paper)の略で、信用力のある優良企業が割引方式で発行する無担保の約束手形です。

 

CPは、一般企業や金融機関が短期資金を調達するためにオープン市場で発行します。CP発行企業は、企業の信用力を反映した金利で資金調達を行うことができます。

 

◆CP市場の創設

 

CP市場は、米国で自然的に発生した市場です。日本では、1987(昭和62)年11月に創設されました。
1989(平成1)年5月には、日本銀行による公開市場操作(CPオペレーション)が導入されています。

 

≪FB市場≫

 

FBとは、Financing Billsの略で、政府短期証券のことをいいます。日本の政府が、国庫の一時的な資金不足を補うために発行する短期の国債です。

 

◆発行方式

 

1956(昭和31)年5月、FBの発行方式は、それまでの日銀全額引受から、政府が発行条件を特定して買取希望額を公募する定率公募発行に移行しました。応募額が発行額に満たない場合は、日本銀行が引受けを行いました。その後、1999(平成11)年4月に、発行条件と買取希望額を公募する公募入札方式へと移行しています。

 

◆証券の統合

 

これまで、一般会計が発行する大蔵省証券(蔵券)、食糧管理特別会計が発行する食糧証券(糧券)、外国為替資金特別会計が発行する外国為替資金証券(為券)の3種類が発行されていましたが、1999年(平成11)4月に政府短期証券として統合されました。

 

金融市場

 

≪TB市場≫

 

TBは、Treasury Billsの略称です。短期国債、短期割引国債、割引短期国債などと呼ばれています。TBは、1970年代後半から大量に発行された国債の、償還・借換えを円滑に行うための資金繰りとして、1986(昭和61)年2月から公募入札方式で発行されています。

 

≪円建BA市場≫

 

◆BA市場

 

BAは、Banker's Acceptance(銀行引受手形)の略称で、輸出入業者などが貿易決済のために振り出し、銀行が引き受けた期限付為替手形です。

 

銀行は、自らを支払人として期限付為替手形を引き受け、BA市場で売却して資金を調達しています。市場では、投資家やディーラーに転売されます。BA市場は、ニューヨークやロンドンでは発達しており、主要な短期金融市場となっています。

 

◆円建BA市場

 

円建BAは、円建期限付為替手形です。日本では、1983(昭和58)年10月の「総合経済対策」で円建BA市場の創設が検討され、1984(昭和59)年5月の「日米円ドル委員会報告書」で円建BA市場の創設が決定し、1985(昭和60)年6月に円建BA市場が創設されました。

 

円建BA市場は、金融機関や事業法人などが自由に参加できる市場です。創設直後には587億円の残高(1985年6月末)がありましたが、現在のところ取引はほとんどありません。

 

金融市場

※取引残高…日本銀行「金融経済統計月報」参照

 

 

 

2.長期金融市場

 

長期金融市場は、取引期間1年以上の長期にわたる金融取引が行われる場で、資本市場(キャピタルマーケット)ともいいます。長期金融市場の代表的な市場に、証券市場があります。

 

≪証券市場≫

 

証券市場では、有価証券の売買を行うことで資金を取引しています。企業は、証券市場で株式や債券を発行することによって資金を調達します。証券市場は、株式市場と公社債市場に大別されます。

 

◆株式市場

 

株式市場は、企業が発行する株式を取引する市場です。証券取引所がその代表で、投資家から委託を受けた証券会社が株式の売買を行う場所です。

 

◆公社債市場

 

公社債市場は、国債や社債などの債券を取引する市場です。公社債は、公共債(国や地方公共団体の発行する債券)と社債(企業が発行する債券)の総称です。

 

金融市場

 

 

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まとめ

金融市場
  金融機関を主な取引参加者として、お金の貸し借りを行う場
  短期金融市場と長期金融市場がある
短期金融市場
  期間1年未満の資金を融通する場
  インターバンク市場とオープン市場がある
インターバンク市場
  取引参加者が金融機関に限定される
  コール市場、手形売買市場、東京ドル・コール市場がある
オープン市場
  一般の事業法人が自由に参加できる
  CD、債券現先、債券レポ、CP、FB、TB、円建BAなどがある
長期金融市場
  期間1年以上の資金を融通する場
  株式市場、公社債市場がある

 

 

問題と解答
  1. ●●金融市場は期間1年未満の資金を融通する市場で、●●金融市場は1年以上の資金を融通する市場です。
  2. (答え)短期、長期

  3. インター●●●市場は、金融機関が相互の資金の運用と調達を行う場です。●●ル市場、手形売買市場、東京ドル・コール市場があります。
  4. (答え)バンク、コー

  5. コール取引には、担保を必要とする●●●コールと、担保を必要としない●●●コールがあります。有担保コールは、国債など日銀適格担保のもとに行われるローンです。
  6. (答え)有担保、無担保

  7. 手形●●市場は、短期資金(翌日物から1年物)を融通する貸借市場です。●●企業の発行する手形を、割引の方法によって売買する形で資金の融通を行います。
  8. (答え)売買、優良

  9. ●●●ン市場は、法人であれば誰でも参加できる市場です。CD、債券現先、債券レポ、CP、FB、TB、円建●●等の取引市場から成り立っています。
  10. (答え)オープ、BA

  11. CDは、●●●預金証書の略称です。取引には、無条件売買(買切り、売切り)と債券現先をまねた条件付売買(CD●●)の2つの方法があります。
  12. (答え)譲渡性、現先

  13. 債券現先取引は、一定期間後に一定価格で反対売買を約束して行う債券の購入(売却)取引です。買い戻し条件付きで売ることを●●現先、売り戻し条件付きで買うことを●●現先といいます。
  14. (答え)売り、買い

  15. 債券●●市場は、現金を担保に債券を貸し借りする市場で、「現金担保付債券貸借取引市場」といいます。貸債市場は、空売りした●●の手当てのために国債を貸し借りする市場です。
  16. (答え)レポ、国債

  17. CP(コマーシャル・●●●●)は、優良企業が割引方式で発行する約束手形です。FBは、政府●●証券のことで、国庫の一時的な資金不足を補う為に発行されます。
  18. (答え)ペーパー、短期

  19. TBは、短期●●の略称で、国債の大量償還・借換えを円滑に行うための資金繰りとして導入された割引債です。円建BA(円建●●●為替手形)市場は、現在、取引はほとんどありません。
  20. (答え)国債、期限付

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